| 「……っく! ―――ふぅぅ……」 「? 詩織、どうした? 油でもはねたか?」 ついこらえきれずに漏らしてしまった呻きに、コンロに向かっていたお父さんが、不審そうに振り向いてくる。 なんでもないよ、とできるだけ普通の顔を作って、厨房を出る。 できるかぎり普通に、なんでもないように、食堂のお客さんへとトレイを運ぶ。 いつもの食堂。 いつものお客さんたち。 いつもの、風景。 なのにわたしには、まるで現実味が感じられなかった。 あるのはただ、鈍い痛み。 脚の間、お腹の底にまだ残る痛みだけが、確かなものとしてずくずくと疼いていた。 ―――なんで、こんなコトになっちゃったんだろうって、何度も何度も繰り返し自分に問いかける。 私が不用心だったから? 私に隙があったから? どれだけ考えたって、起こってしまったことは、もう変えようない事実だってことなんだ。 待ちわびてるお客さんの前に、いつも通りの笑顔を浮かべてお料理を置いて、また厨房に戻ろうとする。 振り返るその動きだけで、痛みが蘇る。 まだ、なにかが挟まっているみたいな痛み。 その痛みを押し殺して普通の顔を取り繕えば、お父さんやお客さんにはごまかせるかもしれない。 でも、わたし自身には、なにをどうやったってごまかせない。 昨夜、わたしが、千川くんに。 ―――犯された、ってことは。 もうどうしようもなく、本当のことなんだ。 |
「……なんだか変だぞ、詩織。 具合が悪いンなら、部屋で休んでたっていいんだよ」 「ううん、大丈夫よ、本当よ。ただちょっと寝不足なだけ。 ほら、近頃同窓会の名簿つぐりで、夜更かしが続いちゃった から……」 厨房に戻った私を気遣って、お父さんがそう言ってくれたのは嬉しい。 本当なら、部屋に籠もって、じっとしていたい。 でも、駄目なの。 部屋にいれば、きっと思い出しちゃう。 部屋にはまだ千川くんの匂いが残っているような気がする。 ―――男の人の、匂いが。 自分の部屋なのに、わたしは当分あの部屋で安心することなんて、できないんじゃないかって思う。 眠っていた私に、のしかかってきた体。 力が強くって、荒々しい、男の人の、体。 千川くんの――― 思えば、家の鍵はかけないでおいたほうがいいよ、って勧めてきた時から、彼はそのつもりだったんだ。 わたしを、レイプする気だったんだ。 用事で遅くなるお父さんのために開けておいてやれなんて言いながら、千川くんは最初からそのつもりだったんだって今さら気づいたって、もう遅い。 わたしの処女は、もうかえってこない。 あんなに乱暴に奪われても、いまだに信じられないのは、千川くんがそんな目でわたしを見ていたのかってことだ。 そんな目―――女の子を狙う目で。 確かに、わたしは高校の頃から千川くんのことを好きだったと思う。 ただ、わたしの好きは、あくまで仲の良い友達としてのそれで、恋人同士のそれじゃ……あ!? ダメ……! 垂れてきちゃう……っ!? 内腿に生ぬるいモノが伝わってきたような気がして、慌ててスカートの上から押さえて、ほっとした。 ……気のせい、だったみたい。 そんな仕草をやっちゃってから、焦って周りを見回したけれど、よかった、誰も気がついてない。 今の見られたら、絶対変に思われる。 でも……今のは気のせいだったけど、今朝がたなんか本当に大変だった。 浅いまどろみから身を起こしたとたんに、どろどろ……って。 アソコから、あとからあとから溢れてきた。 千川くんが帰ったあと、しっかり洗って何度も拭いたつもりだったのに、まだお腹の中に残ってたんだね……。 焦ってティッシュを宛えば、どろどろのぬるぬるが、溢れそうだった。 もちろんわたしだって、それがなんなのかくらいはわかってる。 男の人の―――精液だ。 でも、こんなにたくさん出るものなの? ぼんやりとうつけたように眺めてると、白く濁ったどろどろの中に、薄い朱の筋が混じっていて――― それでわたしは、改めて泣いてしまった。 わたしだって、いつかはこういう日が来るのかなって考えたことはある。 誰かに抱かれて、オンナになる――― |
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実のところ、その相手が千川くんだったらいいな、って空想したことも、ほんの少しだけある。 ただそれは、ちゃんとお互いの気持ちを確かめ合って、恋人として付き合うようになってからのことで、あんな風にレイプされて、なんかじゃ決してない。 ……千川くん、終わったあとで、わたしのこと、好きだって言ってくれた。 そんな風にとってつけたように言われたって、信じられるわけないよ……。 それに、わたしのこと、ほんとに好きなら、あんなことなんて絶対にできないはず。 下半身全体が、痛みの塊みたいだ。 千川くんが犯したのは、アソコだけじゃない。 その……うしろの……お尻のほうまで……! そればかりか彼は、その一部始終をなんとかいうカメラで撮ってたって言ってた。 わたしが他に喋ったら、ネットって流すって。 本当に好きなコに、そんな真似できるはずないじゃない! そんな風に脅迫できるはず、ないじゃない……! ―――彼は、またわたしのことを犯すつもりだって言ってた。 もう、無理。もう、いや。絶対に。 そう心に決めつつも、たぶんわたしは逆らえないだろう。 脅されたからってだけじゃない。 千川くんが入ってきた時は、たしかにただただ痛くて辛くて死んじゃいそうだったけど、お尻なんかきっと裂けちゃってるだろうけど。 その前に、彼に触れられて、胸とかあんなに激しく揉みしだかれて、わたし、声を出しちゃってた。 自分でも信じられない、甘い声だった。 セックスの気持ちよさ、そのほんの僅かなかけらを、彼に擦りこまれてしまったと思う。 今はこんなに痛むアソコ、もしまた犯されたとしても、彼が言うように気持ちよくなることなんてありえない。 ありえない、のに――― 不意に底無しの暗がりを覗きこんだような気がして、深く喘いだ。 わたしは、きっと。 また、犯されてしまうことを。 受け入れてしまう――― |
千川くんには、逆らえない。 そして逆らえないっていう、そのことは――― 恐怖と嫌悪だけじゃなくって、引きずりこまれるような、暗い期待さえ、ともなっていて。 ―――怖い。 ―――けれど本当に怖いのは。 ―――今も胸を熱くしている、自分自身――― |